2004.08.15(Sun) 『コミックマーケット66』新刊
『Nocturne〜恋愛夜想曲〜』
(『あいかぎ〜ひだまりと彼女の部屋着〜』、小説、オフセット本、18禁)
小説・構成/鹿月 竜樹
表紙・挿絵/大豪寺翔冴
監修/フェイクタング
『Pia3』を世に送り出した、F&C・FC02の第2作、『あいかぎ〜ひだまりと彼女の部屋着〜』を補完する純愛小説(18禁)です。
メインヒロインである葉月 彩音・葉月 千香姉妹を中心に、主人公の村瀬 孝司をはじめ、樟若葉学園でともに過ごした友人たちとの触れあいを描いた、短編小説集となっています。
『Nocturne〜恋愛夜想曲〜』は、以下の2つの短編小説から構成されています。
それぞれ、メインとなるヒロインが異なるのが特徴です。
- 卒業 (一般向け)
- お互いを愛し、必要としながらも――しばらくの別れを決断した彩音と孝司。
その決断から一週間ぶりに、二人は樟若葉学園の卒業式で対面する。
二人の間に去来するさまざまな想い――その想いに悩みながらも、二人は最初の一歩を踏み出す。 - 彩音メインの一般向け短編小説です。
彩音シナリオで詳しく触れられなかった卒業式の光景を、孝司の視点で描いてみました。
一部を抜粋して、ご紹介いたします。→ 『卒業』(抜粋)を読む - 七夕夜話 (18禁)
- 樟若葉町を離れ、地方の大学へと進んだ孝司。
樟若葉町に残り、青鳥幼稚園で働きながら保母を目指す道を選んだ千香。
千香は、遠く離れて会うことのできない二人を、昔、憧れた織姫と彦星になぞらえた。
そして、八月が近づく頃――夏祭りの夜に、織姫と彦星のように、二人は再会する。 - 千香メインの18禁短編小説です。
前作以来の純愛路線はそのままに、コミカルな要素を織り込んでみました。
こちらも、一部を抜粋して、ご紹介いたします。→ 『七夕夜話』(抜粋)を読む
初版は、A5版・44ページからなるオフセット本として、2004年8月15日(日)『コミックマーケット66』にて刊行され、1部につき500円で頒布されました。
今回、初めて100部(+24部)ほど刷りまして、初回の『コミックマーケット66』で68部が売れました。現在の在庫は、32部+αです。
■ 『卒業』より抜粋 ↑
「村瀬 孝司」
はっきりと通る、凛とした声で俺の名が告げられた。
「……はい!」
返事とともにすっと立ち上がった。その瞬間、我ながら気持ちの良い返事が出来たと思った。
隣の祐希を一目みると、祐希は「行ってきな」ってウインクで返した。一つうなずき、俺はその一足を踏み出す。
思い出深き体育館にまっすぐ敷かれた、真っ赤な絨毯を一歩ずつ確かに踏みしめながら、その両脇に居並ぶ卒業生たち――共に今日この学園を卒業する同期たちのまなざしを意識しながら、壇上に近づくように歩みを進めていく。
卒業生たちの最前列を過ぎれば、流れは右へと曲がる。その先を向かって右手――体育館の壁側に用意された座席には、お世話になった学園の先生方が並んでいるはずだ。
何十人かの先生方のうちから、俺は山岸めぐみ先生を探し出して、丁寧にお辞儀した。
(色々と、お世話になりました)
それに気が付いてくれたのだろう、めぐみ先生も微笑みながら、何度も頷いてくれた。
「よく頑張ったわね。おめでとう」
心でそう言ってくれているような気がして、嬉しかった。その気持ちのまま、いよいよ壇上に向かって踵を返す。
そして、顔を上げたそこには、誰よりもお礼を言いたかった女性が待っていた。
(……先生)
目を向けた先には、桜色のスーツで正装した彩音先生が待っていた。お互いの目に、お互いの姿が映っている瞬間――長く待ち望んでいたその瞬間を今、迎えたのだ。
言いたいことが色々あった。伝えたい想いが色々あった。それらをぐっと飲み込んで、俺は目を閉じて、深々と頭を下げた。
(彩音先生……本当に、本当にありがとう)
これは厳粛な儀式なのだ。
この瞬間は『担任』としての彩音先生に晴れ姿を見せることの出来る、最初で最後の機会なのだ。
そう、自分に言い聞かせながらの最敬礼だった。
(だから……俺は、行きます)
どれくらいそうしていたのか分からない。ほんの一瞬のようであり、永遠に近いほど長い時間のようでもあり――その果てにゆっくりと頭を上げて、目を見開いた。
(……先生)
目の前には、これまでに見たことのないくらい、優しい笑顔をした彩音先生が見つめていた。
「孝司君……卒業、おめでとう!」
何も語らない沈黙の中、そんな言葉を聞いたかのように、胸がいっぱいになる想いに心が満たされていた。何の後悔も、何の不安も――染み渡っていく想いの水底に、すべて沈んで消えていった。
「ありがとう。本当に……ありがとう」
心の叫びは必ず伝わる。いや、必ず伝わったはずだ――そう深く信じて、俺は壇上へ上る階段に一足一足を踏み出していく。
そんな自分の姿を見つめてくれている彩音先生のまなざしを背中に感じながら、俺は校長の前に歩み出て、両手でしっかりと卒業証書を受け取った。
「卒業、おめでとう」
そう言った校長に礼をして、一歩後ずさって両足をそろえる。左足を半歩引いて、身体を左九〇度に回転させて、右足を左足にそろえる。そのまま壇上から向かって左手の階段からゆっくりと降りて、自分の席へと歩いていく。
(……よかった)
自分の席に腰を下ろしたとき、そう思った。
彩音先生が自分のことをとても大切に想ってくれている――それは分かってはいたけれど、離れているうちに湧き出してくるだろう疑いの気持ちをどうすれば乗り越えられるだろうか、とずっと不安に思っていたことも事実だ。
母はなく、今や父もなく、たった一人の姉さえも遠くに離れてしまった孤独を忘れようとして、家族の温もりさえ忘れかけていた自分。そんな自分に、分け隔てなく愛情を注いでくれた彩音先生は、たった一つ、この手に残された希望だった。だからこそ、失いたくない思いが強すぎて、かえって不安な気持ちを抱えていたに違いない。
だけど、今日の彩音先生の笑顔には、そんな後ろ向きな気持ちを吹き飛ばしてくれる何かがあった。
それは、彼女が日常皆に振りまいているような、明るく人当たりのよい笑顔とは、まったく別のものに思われた。何より、少なくとも今の自分は、それを自分の単なる思い過ごしとは疑っていなかった。
そんな彩音先生の笑顔に救われている自分の疑い深さを、俺は思い知らされた。恥ずかしいと思った。
(ごめんよ、彩音先生……俺、まだまだ先生を信じ切れていなかった。まだ、心のどこかに先生の想いを疑ってしまう心があったんだ。ホント、情けないよな)
逆に、今の自分はどうだろう。あまりに未熟で、あまりに非力で、自分に向けられた気持ちを信じぬくこともできないで、どうやって彩音先生を守っていけるのだろうか。
記憶があいまいなくらい昔に亡くしていた母のような、彩音先生のいとおしさを思うとき、この希望を永遠に守り抜くため、もっと力が欲しいと願った。今の自分は大好きな女性を悩ませ、苦しめてしまう存在でしかないから。
(誰かに頼るんじゃない。自分一人で自分の道を切り開いていくんだ。今はその力をつけるしかない)
今は力をつけねばならない。人格を磨かねばならない。
自分を磨くため、荒れ狂う外洋に向かってこぎ出すことを恐れていてどうするのか。
どんな嵐の中でも、またどんな暗闇の中でも、ただ一つ希望という羅針盤が指し示す航路を信じ、押し寄せる波を超え続けていくのだ。
そして、その果てにこそ俺の目指す新しい天地が広がっている。
(この続きは、冊子『Nocturne〜恋愛夜想曲〜』にて掲載されています)
■ 『七夕夜話』より抜粋 ↑
七月も終わりに近づき、そろそろ八月を迎えようという頃。梅雨はとっくに明けて、夜空を眺めればうっすらと天の川が見えてくる。
天の川をはさんで、東と西とに分断された二つの明るい星――織姫と彦星――があり、その天の川の上には、白鳥が大きく翼を広げて羽ばたいている。
中学の理科の授業で習った『夏の大三角形』は、たしか織姫と彦星、そして白鳥の尾に光る、明るい星の三つをつなぐんだったかな――千香は、そう思い返していた。
織姫と彦星の別離の物語は、子供の頃――まだ母が生きていた頃だから、もう、ずっと前――に母から教えてもらった。
お互いに深く愛し合った織姫と彦星。でも、機を織らなくなってしまった織姫と、牛を牽かなくなった彦星は、ともに神様の怒りに触れて、二人は天の川の両端に引き裂かれてしまった。
織姫が悲しみの底に沈んだとき、それを不憫に思った神様は、一年にたった一度、七月七日に限って、二人が天の川を渡って会うことを許した、というおとぎ話だ。
幼い頃、その話を聞いたとき、「私にもそんな夢のような人が現れるのかな」と母に聞いたこともあった。母はそんな私に「必ず見つかるはずだから、そのときまでに自分をきれいに磨いておきなさい」と言ったのだ。
あの頃、将来出会うだろう彦星さまに思いをはせて、自分なりに花嫁修業みたいなことを――料理や洗濯など、母のしていることを見よう見まねで――やってみたのを覚えていたりして、恥ずかしかったりする。
だけどそんな私を、生前の母は愛情をもってじっと見守ってくれたものだった。
(村瀬さんが、私の彦星さまなのかなぁ)
今やお互いに違った道を進むため、今は別れ別れになっている私と彼。そんな自分たちを、もう何年ぶりかに、天空の織姫と彦星に重ねている自分がそこにいた。
(お姉ちゃんと、ゆうちゃんが一緒に選んでくれた、この浴衣――気に入ってくれると嬉しいな)
つい昨日に、駅前のデパートに行って、選んでみた浴衣。いつもは二つにまとめることもある、長い黒髪をほどいてストレートに伸ばしたヘアスタイルと、紺色を基調とした落ち着いた色合いの浴衣がよく似合ってるって、お姉ちゃんも、ゆうちゃんも言うけれど。
村瀬さんは、気に入ってくれるかな――そんな思いを秘めながら、団扇を片手に、彼を待つ。
学園を卒業してからというもの、少し離れた地方の大学に行ってしまった彼とは、なかなか会う機会がなくなってしまったけど……今日、その彼が樟若葉町に帰ってくる。
だから、今日は村瀬さんとデート。近所の小学校で毎年開かれる夏祭りに一緒に出かけようって、自分から勇気を出して誘ったのだ。
それだけでもすごく勇気のいることなのに、お姉ちゃんとゆうちゃんの二人は、「まだまだ甘い」って言って、さらに過激な提案をしたのだった。
(私、ひもパンなんて、今まではいたことないのに……村瀬さん、どう思うかな?)
腰に手を当ててみる。下着の結び目がとっても気になるのだ。確かにデザインは可愛いけど、大胆なショーツ。今まで、こんな積極的な下着、はいたことないのに……大丈夫かなって心配になる。
(この続きは、冊子『Nocturne〜恋愛夜想曲〜』にて掲載されています)
